● 小阿寺川のかっぱ 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 むかし、下吉田の小阿寺部落に、五平という人が住んどってな。
 五平どんは、馬を1頭飼っとった。
 夏のある日、そりゃあじっとり汗が出てたまらなんだで、
「馬もどんなにか、暑かろうなあ・・・・・・。」
 五平どんは馬をひいて、川原へいった。浅いところで、馬のからだをごしごし洗ってやると、馬は目を細めて、川の水をがぶがぶ飲んだ。川原の木かげに馬をつないで、
「涼んどれよ。ばんげにむかえに来るで・・・・・・。」
 たてがみをなでた。馬は、うん、うん、というように首をふって、五平どんを見たと。
 さて、夕方、
「川原は涼しい風がふいとったで、あいつもよう休まっただろな・・・・・・。」
 五平どんが川原へ馬を連れにいくと、馬はしきりに頭をふり、ひづめで土をけり、
 ひひーん、ひひーん、
 いなないとるじゃないか。ただごととも思えんで、五平どんは走りよってな。
「おい、どうした、腹も痛いか。」
 ところが馬は、なんと五平どんに訴えかけるように、あばれるばかり。五平どんはあわてたぞ。
なんだか、わけがわからんもんなあ。
 五平どんは、おろおろして、ふと、馬のしっぼを見た。なんと、きみょうな動物がしがみついとるじゃないか。その、おかしなものの大きさは、2、3才の子どもぐらいで、やせとって、黒っぼいはだはぬめぬめしとる。おまけに口はとんがっとって、そいつは小面にくい顔つきで、五平どんをにらんどる。
「やい、おまえはなにもんだ。」
 五平どんが、にらみつけてやると、
「おら、かっぱ。」
という。
「げぇっ、かっぱ?」
 五平どんはこれが話しに聞いとったかっばかと、気をもんでな。
 馬のしんのこぬかれたら、どうしよう……
 その間にも、馬はそいつをふり落そうとあばれたが、かっぱは必死にしがみついとる。
「こら! 放せ。 かっぱめ、放せ!」
 五平どんは大声でどなった。ところが、かっぱのやつ、目をぎろぎろさせて、いよいよしがみついて、放そうとせん。
 馬はなくし、五平どんはもう困ってしまってな。
「ようし、つかまえてしばっちゃうぞ。小阿寺川へ帰れんようにしてやるぞ。」
 綱で、かっぱをぴしりと打った。
 かっぱは、ひえっと声をあげたかと思うと、川原へころげ落ちた。五平どんはすかさず、もういっぺん打ちすえた。かっぱのやつ、げんなりころがったまま、ぎいろりと五平どんを見上げたと。五平どんは、急いでしばりあげた。ぬめぬめのかっぱは、ほんとに気味が悪かったげな。
「やい、みんなに見せてこらしめてやるぞ。」
 すると、かっぱのやつ、みょうによわよわしくいったと。
「たすけてくれろ。」
「いかん。おまえは人間のしんのこをぬくし、この馬だって、川へ引きずりこもうとしたのだろう。」
 かっぱのやつ、それはあわれな声でな、
「いや、おらこそ、この馬に、だいじな頭の皿の水、こぼされた。たすけてくれろ。」
って泣いたと。
そうか、皿の水を、おらの馬がこぼしたのか、こりゃあ、おもしれえ・・・・・・"
 わらいたくなるのをこらえて、五平どんはかっぱをにらんだと。
「まあ、わりいこと、せんか。」
「うん……。」
 かっぱは、ぐんなり、うなずいたと。
「ようし、この小阿寺川に住まん、と、約束するか。」
 かっぱのやつ、息もたえだえにうなずいたんで、五平どんは、かっぱの頭の皿に、川の水を入れてやったと。
 とたんに、かっぱは力を取りもどし、ぷつんと綱をきって、小阿寺川へとびこんだと。
 それからあと、五平どんも馬も、なんど川の近くへ来ても、いっぺんもかっぱに会わなんだそうな。

愛知のむかし話(愛知県郷土資料刊行会) より引用 

小阿寺川

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