● 薬になった水 前のページへ戻る   HOMEへ戻る   東三河の伝説・昔話へ 

 それはいつの頃だっただろう。 よく分らないが、ずーと昔のお話だ。
貧しい暮しの母と娘が、一所懸命働いて幸せな日々を送っていた。
「ユキや、お父さんがないばっかしに、小さいお前まで毎日働かせてしまってすまんなあ」
「おっ母あさん何言うんだ。 おらあ体も大きいし丈夫だから何とも思やあしないよ」
「そうか、すまん、すまん」
母親は何か元気のない言葉を娘のユキに返すのだった。
 それから数日たったある日、母親は急に目まいがするといって寝込んでしまった。 そして何も食べたくないという日が、きのうもきょうも続き、とうとう起きあがるカさえなくなってしまった。
 今日も一日中外で働いて家に入り母親の顔を見たが、ただ声をけるだけでどうすることもできない。 〈どうしたら良くなるだろう> と考え通した。
ユキは、どこかによい薬はないものかと思い、母親に「おっ母さん、おれ薬さがしに行ってくる」
と言い残して、出かけて行った。
出会う人ごとに、
「どこかによい薬はないかいのう」
と聞きながら歩いてみたが、よい薬をさがしだすことはできなかった。 悲しい思いでとぼとぼと山すそを歩いていると、立派な寺の屋根が見えた。
「あのお寺は何という寺だのう」
と村人に尋ねると
「あの寺は、長養院だ。 おかみのお墨付のあるお寺だから、寺の前は勝手に通れん」
と親切に教えてくれた。
 ユキは歩き疲れた足を運んで、そっとお寺の裏口から中をのぞいて見た。 山門の横に池があり、美しい水が一ばいたたえられ、片方からはぶくぶくと水が池に流れ込んでいる。
腹のすいているユキは、何もかも忘れて池に近づき湧き出ている水を手ですくってぐいっと一口のんだ。
「ああ、おいしい」
ユキはそういいながら続けて2、3回すくってのんだ。 少したつとみるみるもとの元気さにもどった。
「そうだ、この水をもらって、おっ母さんに飲ませよう」
ユキは持っていた筒に水をすくい入れた。 早く帰っておっ母さんに飲ませよう。 はやる心をおさへながら立ちあがると、立派なお坊さんが立っていた。 ユキはびっくりした。
「申訳ありません。 お水をもらいました」
ただそれだけいうのが一ばいだった。 坊さんは、
「この池はな、ここからずっと向うの蔦の淵までつながっていてな、淵の真中が竜宮に続いていて、水はそこからくるということだ。 この水をのむとな、体の疲れがとれるんだよ。 お前も元気になったようだのう」
「有難うごぜいます。 おっ母さんにこの水を飲ませます」
「ほう、おっ母さんは病気かい。 早くお帰り」
ユキは一礼して急いでもと来た道を走るように帰って、その水を飲ませた。
ユキの母を思う真心が通じたものか、母親の病気はほどなく治り、二人の母娘は前にもまして幸福に暮したとか。
  「東栄の民話」(東栄町教育委員会 発行) より引用


長養院

底なしの池

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