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  「おーい、皆んな、早く集まれー」
庄屋源兵衛の声があたりに響いた。 今日は蔦の淵で雨乞いをする日である。
8月になってから、もう1滴の雨も降らない。 毎日毎日焼けつくような太陽が照りつけている。
川の水はめっきりへって、川上の部落では、淵に水がないようになったとのうわさが聞こえてきた。 金紫平でもどこの家の井戸水もかれてしまい、飲み水にも不自由するありさまだった。
源兵衛の大声に、今まで5、6人ずつかたまって困った話をしていた村の衆も、お寺の門の前にぞろぞろ集まってきた。 門の附近の草はもう黄色に枯れかかっている。
「もうじき役男の太一が、お寺から血脈をいただいて出て来る。 みんな太一について蔦の淵まで行くんだぞ」
源兵衛の何かあせるような、そして祈るような声に、村人達は、しーんと静まり返っている。
 しばらくして斎戒沐浴し、住職から血脈を載いた太一の姿が門の前に現われた。頭に結びつけている血脈に皆の目が一斉に注がれた。 < どうか、この血脈が淵のかまの真中にうまく納まりますよう > だれもが心の中で祈りをこめて願うのであった。
 太一を先頭にして、庄屋源兵衛、そして村の衆は、焼けつくような乾ききった道を蔦の淵に向けて、足どり重く歩いて行った。 淵の横の岩場まで着いた一行は、川とも思えない水かさの少なくなった川をながめて、大きなため息をついた。
 役男太一は、庄屋にうやうやしく一礼して静かに岩場を降り、淵に近づいて行く。 水際に立った太一は、直立の姿勢となり両手をあわせ神仏に祈った。 それがすむとザブンと淵に飛び込んだ。
 泳ぎ達者な若者である。 ゆうゆう泳いでみるみるうちにかま近くまで行った。かまの近くを一まわり泳ぐと、頭につけていた血脈をとった。 < どうか、うまく巻き込んでくれますように > と祈りを込めて、血脈をかまの中に投げ入れた。
 一瞬、村の衆は、だれもが申し合わせたように両手を合せて念仏を唱えた。 血脈が淵に巻き込まれていくように祈った。
 太一の立派な態度と源兵衛はじめ村人達の真心が天に通じたのだろうか。 雨乞いの行事が終るやいなや一天にわかにかきくもり、落ちるような雷が鳴って、おけの水を流すような大雨になったという。
  「東栄の民話」(東栄町教育委員会 発行) より引用


蔦の渕

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