● 天王の弁天さま 前のページへ戻る   HOMEへ戻る   東三河の伝説・昔話へ 

 天王町の池の端にある弁天さまにはこんなお話がある。 もともとは和田村の弁天浦にあったが、暴れ川といわれた豊川がたびたび氾濫して村人はとても難儀したので、この地に移したと言われている。
  ある夏の日のこと、伊助が、石巻山の北の馬越の里の奥の方で、遅くまできこりの仕事をしていた。 ようやく片がついたので、薪を背負って帰ることにしたが、妙に疲れていて足が進まない。 仕方がないので鐘が淵で休むことにした。
 風が涼しく、豊川の流れがきれいに見えるところに座って休んでいると、なんだか眠くなり、ついうとうとしてしまった。
 ひょいと気がつき、あたりを見回すと、なんともいい香りがする上、気持ちのなごむ音楽も聞こえてきた。 いったい何が起こったのかと目を白黒させていると、それは、それは美しい女が目の前に立っていた。
 その女の様子は、緑滴る黒髪に髻を高く結んでおり、肌は雪のように白くまるで牡丹の花のようだった。 そしてふわっと透き通る羽衣をまとい、にっこり微笑んでいた。 それに、その声の美しいこと、伊助は、ただ聞きほれていると、女は、こんなことを言った。
「ここは、景色がよく川の流れも良く見えて美しい所です。 こんな所にずっと住んでみたいと思っていましたが、噂によると、この川は、たびたび氾濫して何もかも流してしまうとか。 もっといい所はないかと探しておりましたところ、ここから西の方に葦がいっぱい繁って、泉の湧き出る池があると聞きました。 そういう所ならば安心して住めると思うので、そこへつれて行っていただけませんか」と言った。
 伊助は、いったいどこのことだろうとぼやっと聞いていた。 女は、伊助に何度も頭をさげて頼んだ。 ぼうっとなっている伊助は、「よろしゅうございます」とつい返事をしてしまった。 すると、女はアツという間に伊助の背の薪の上に乗った。 伊助は、薪と女を背負って歩き出したが、女を背に乗せているという感じはまったくなかった。 女のいうように葦の繁る泉の湧く池をあれこれ探してやっとたどりつき、女に告げると返事がない。 不思議だなと思って見ると、なんと女の姿はなく、薪の上にちょこんと雛人形があった。 伊助は、はたと、女が弁財天女であることを悟った。 伊助は弁財天女の言ったことを思い出し、池のそばに小さな詞を建て、弁財天をお祀りした。 このことを聞いて村人はもちろん、遠くからもお参りに来る人が増えたが、お参りした女の人はみんな安産だったので、安産の神として広く崇められてきた。
 豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行) より引用 


市杵嶋姫神社

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