● 道しるべ稲荷 前のページへ戻る   HOMEへ戻る   東三河の伝説・昔話へ 

 明和の頃、三河国の吉田藩に松平伊豆守という殿様がいた。伊豆守は文武にたけた領主で、鷹を追えば、百発百中射止めることができた。
 絶えず心を砕き、また、領内の人々の暮らしぶりには絶えず心を砕き、領民らの申し出にも耳を傾けていた。
 吉田の大橋が大雨や台風のたびに流され、困った時のことだ。わざわざ江戸の下谷から腕利きの大工を呼び寄せ、橋の架け替え工事をさせた。大工たちが、難工事にもかかわらず、他所の地にやって来て、一肌脱いだのも、伊豆守の人柄によるところが大きかった。
 からりと晴れた秋のこと、伊豆守は、二川の山中へ数人の供を連れて狩りに出かけた。岩屋山の山中には、たぬきやきつね、野うさぎなど、さまざまな動物が住んでおり、格好のお狩場であった。鷹や雉なども、時折り天伯村の野にまで舞い降りてくることがあった。ここは獣道こそあれど、馬で駆け上るにも難しいお狩場であった。
「殿、お気をつけ下さい。そのように急がれては危のうございます。この辺りは、馬にとっても足場がなき所ゆえ」
山を知り尽くした家来の一人が、伊豆守のはやる気持ちを抑えた。
「よいよい、分かっておる。初めての山ではないぞ」
 伊豆守は木々の間からかいま見る青空を仰ぎながら、頂上の岩場へと急いだ。しかし、不思議なことに頂上は見えてこない。それどころか、馬は深い谷底へ降りていくようであった。そのうち、白い霧が立ち込めてきた。
「はて、先ほどの青空はどうしたことか、この霧は‥・」
家来たちに声をかけたが、返事が返ってこない。
「みなの者、返事をせぬか。霧が濃うて、何も見えぬぞ」
静まり返った山中には、ただ伊豆守の声が響くだけであった。狩り衣は、しっとりと霧にぬれ、馬のたてがみも冷たくぬれていた。伊豆守は霧の晴れるのを待った。
 その時、こつ然と西方の霧が晴れ、はるかかなたに稲荷神社が見えた。伊豆守は稲荷神社に導かれるように、その方に進んでいくと、やがて頂上の岩場にでた。そこには大空高く鷹が舞っていた。
「殿、ご無事でございましたか」
 伊豆守は、遠くに見える稲荷神社に向かい手を合わせた。
 後に、その稲荷神社が道知辺稲荷と知った伊豆守は、この神社に五十石を寄進し、厚く信仰した。
それ道知辺稲荷神社は歴代の城主を始め、家臣、領民の守り神として祀られてきたという。
 この稲荷は、「みちびき稲荷」とも言われ、今では交通安全を祈願する人たちが参拝に訪れている。
 豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行) より引用 


道知辺稲荷社

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