● 子守り地蔵 前のページへ戻る   HOMEへ戻る

 大知波(静岡県)に住む百姓の直吉は、もうすぐ初めての赤ちゃんが生まれるので、多米峠を越えて、吉田まで買い物にやって来た。あれこれ選んでいるうち、すっかり遅くなってしまった。帰り道を急いだが、峠を越す前に日が暮れ始めてしまった。
 暗い山道は危なくて歩けない。困った直吉は、峠の麓に小さな地蔵堂を見つけ、一晩泊めてもらうことにした。
 お堂を汚さないように履いていたわらじをぬぎ、お地蔵さまに手を合わせ、隅っこに寝かせてもらった。
 その夜、直吉はお地蔵さまの夢を見た。
「お前の家では、今夜男の子が生まれている。可哀想だが、その子の寿命は15歳までじゃ。15歳の時の望みは何でもかなえてやるがよい」
 変な夢を見たものだと思いながら、次の朝急いで家に帰ると、お地蔵さまのお告げのように、可愛い男の子が生まれていた。
 直吉とおかみさんはこの子を清吉と名付け、可愛がって大切に育てた。やがて、清吉は、心の優しい、立派な若者に成長した。その姿を見ながら、直吉は、お地蔵さまの言葉を心の中にしまって、誰にも話さなかった。
 清吉が15歳になった春のこと、お伊勢参りがしてみたいと言い出した。お地蔵さまのお告げ通り、望みは何でもかなえてやろうと決めていた直吉は、お伊勢参りに行かせてやることにした。途中でお腹がすいた時のために、おかみさんはお団子をたくさん作って持たせてやった。
 清吉は、多米峠を越え、お地蔵さまにお参りし、吉田の大橋までやって来た。橋のたもとに美しい女が立っていて「1人では心細いので、お伊勢参りに一緒に連れて行ってほしい」と清吉に頼んだ。清吉は快く引き受け、2人は仲良く伊勢神宮に向かった。お腹がすいたときには、お団子を分け合って食べたりもした。無事、お伊勢参りをすませて吉田の大橋までもどってきた。
 女の人は急にあらたまって、
「実は、わたしは豊川の入道淵に住む竜です。一度、お伊勢参りに行ってみたかったので、姿を変えて、あなたを待っていました。お陰で、望みがかないました。あなたの寿命は今日でおしまいでしたが、お礼に、今から100歳までも生きられるようにしてあげましょう」
と言うと、大きな竜となって豊川の中に消えていった。
 息子の無事を喜び、お地蔵さまのお陰と、直吉親子は毎年お参りを忘れなかった。
 その後、多米の宝珠寺前のお地蔵さまは子守り地蔵と言われるようになった。

 豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行)より引用 


宝珠寺

地蔵堂

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