寅蔵の墓とゆかりの松 前のページへ戻る   表紙へ戻る

(前略)
 むかし、この村の中村寅蔵という人、生まれつき多病、とりわけ疳の病がひどく、ある日、畑仕事の最中ににわかに苦しみだした。それを見つけた村の人に家へおくりとどけられる途中、寅蔵はあえぎ、あえぎ、
「わしは、一生、疳の病で苦しんだ。わしが死んだら、墓のそばへ松の木を2本植えてもらいたい。わしは疳の虫になって、同じ病に苦しむひとを救ってやる」
と言いのこして、間もなく死んでいった。文久3年(1863)3月のこと、まだ二十代の若さであった。
 ほどなく、松の木の根元から、8.5ミリほどの黒い小さな虫が這いだしてきた。村のひとが、ためしに、この虫を疳の子供にのませたところ、すぐ治ってしまった。
「寅蔵虫」「疳の虫」の評判はたちまちひろがり、遠くからたずねてくる人があとを絶たなかった。この松の木は部落を流れる帯川の西岸、村の共同基地に残っており、この虫いまもときどき現われる。
(後略)

愛知の伝説(角川書店) より引用


寅蔵の墓とゆかりの松

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