反茂池と沢渡池 前のページへ戻る   表紙へ戻る

 昔々、神代の頃、1人の大男が、滝のような汗を流しながら、西の方からやって来た。
 ドシーン、ドシーン、ドシーン、なんと、その足音のでかいこと。一歩一歩足を踏みしめるたびに、真っ白い土埃が、あたり一面に舞い上がった。山のように盛り上がった肩には、天秤棒がゆれている。2つ並んだモッコには、なんとまあ、山のような黒土がドサリとあふれて、今にもこぼれ落ちそうだ。
 大男が、グッと力を入れるたびに、まんまる目玉がギラギラ光った。
「うんしょ、こらしょ、どっこいしょ」
 なんと、その声のでかいこと、雷のような響きは周りの木々をふるわせた。そのひょうしに、ゆれるモッコから、ゴロゴロと大きな石がころげ落ちていく。
 「ふー ここらでちょいと一休みするか」
 大男は、流れる汗を大木のような腕でふり払うと、どっかと腰をおろした。
「おお、風が出てきた。これで一雨くりゃあ涼しくなるぞ」
 緑の森を吹きぬける風が、ヒユルン、ヒユルンと大男の背中をくすぐっていく。
「さあ、行くぞ!」
 大男は、天をあおぎながら、すくっと立った。なんと、その足のでかいこと。2本の大木が天にまでも伸びている。すねには、針金のような毛が生え、チリチリと音を立てている。
ズシーン、ズシーン、ズシーン‥・、大男は、大きな地響きを立てながら、東に向かって歩いて行った。大男が腰をおろした辺りには、尻のあとが、くっきりと2つへこんでいた。
 夕方になると、さっきまで鳴いていたセミの声がぴったりとやんだ。すると、にわかに西の空が暗くなり、やがて、大粒の雨がバラバラと降り出した。
 次の日、大男が残していった尻のあとに、昨夜からの雨水がたまり、大きな池が2つできていた。
「やあ、ありがたい。これで、米もつくれるぞ」
「これも、大男のお陰だのん」
「あれが、噂の国造りの神さまかも‥・」
 村人たちは、手をとりあって喜んた。
「反茂池」と.「沢渡池」、2つの仲良しの池は、雨が降るたびに、ドンドン水かさが増えて、大きな池になった。

豊橋の民話「片身のスズキ」(豊橋市図書館発行)より引用 


反茂池

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